中期経営計画「VISION2030」で“開発型企業”へ
インドを軸に、自社設計製品とグローバル体制で次の成長ステージへ挑む
次の5年に向けた変革の入り口
1963年に浜松市で創業したASTIは、ピアノの部品製造から歩みをスタートさせた。
同社のセグメントは3つ。二輪車・船外機向けで国内トップクラスのシェアを誇る「ワイヤーハーネス事業」、四輪・二輪車向けのコントローラや充電器を手掛ける「車載電装品事業」、高い防水加工技術を武器に洗濯機部品などを製造する「民生産業機器事業」だ。
同社では、中期経営計画「VISION2030」の最終年度となる2030年を受託型から開発型へと生まれ変わるための「変化の過渡期」と位置づけている。
日本国内の市場が縮小していく中、グローバル市場で生き残るため成長の最大の牽引車として期待しているのが「インド事業」だ。2030年度にインド市場だけで売上高250億円を達成するという高い目標を掲げ、経営資源を重点的に投入していく方針。
インドを選んだ理由は、その圧倒的な経済規模と成長性にある。また、同社の主要な納入先であるスズキやホンダといった日系メーカーが現地で強固な基盤を築いていることも大きな要因だ。
波多野淳彦社長は、インドでの勝機と戦略について次のように語る。
「インド企業が設計・生産した電気製品を開けてみると、まだまだ雑な設計で、品質も安定していませんので、しっかりとした設計で品質を安定化させれば、勝機はあると考えています。ポイントは、低価格化になりますので、設計自体をインドに移管することを考えています」
2026年秋にはハリアナ工場(AEI)に新しい建屋を増設し、自社設計の充電器やインバータを量産するための新しいライン設計を進める。現地の競合に対して圧倒的な品質優位性を保ちつつ、設計機能そのものを現地へ移管することで低コスト化を追求する考え。「インドは単なる生産移管先ではなく、開発拠点であり、生産拠点。インド人スタッフが経営に参加することで本格的な成長につながります」(波多野社長)。
EV化の波を捉え、自社設計戦略へ舵を切る
「EV関連各種電子部品」では、世界的な二輪車の電動化シフトを狙い、自社設計の比率を高めていく。
台湾などのグローバルな競合を相手に波多野社長は、「今後、二輪車のEV化は世界的に急激に進展すると考えています。特にインドやベトナムなどでは、大都市の大気汚染対策として、EV二輪車の導入が必須となるでしょう」と、成長市場での参入を確実なものにしていく考えだ。
「二輪車・船外機用ワイヤーハーネス」は、同社の業績を支え続けてきた文字通りの屋台骨である。国内トップクラスのシェアを維持するため、BCP(事業継続計画)を意識したベトナムとフィリピンの2カ国生産体制をさらに充実させながら、オリジナル部品の開発を加速させ、製品の付加価値を高めることで確固たる受注獲得を継続していく。
医療分野で企業価値を変える挑戦
「メディカル関係製品」では、将来的に大きな柱になるための布石を打っていく。
電子部品メーカーである同社が医療機器分野へ進出したのは、20数年前に当時の社長が静岡大学工学部から1名の学生を紹介され、社内で自由に研究をさせたことが始まりだった。既存の電子部品事業とのシナジーは薄いものの、長年の研究が実を結び、近年ようやく独自のビジネスとして開花しつつある。
医療事業がすぐに同社全体の売上を支える「第2の柱」になるのは難しいかもしれない。しかし、この挑戦的な取り組みは、毎年社内で実施されている自社開発テーマの公募制度とも連動しており、若い社員に対して挑戦の機会と大きなやりがいを提供するという、数字以上の企業価値をもたらしている。
「技術力」と「資本効率」の両立へ
同社が直面している最大の課題は、PBR(株価純資産倍率)0・3倍程度という、極めて低い市場評価からの脱却である。波多野社長は、「市場からは“自動車関連の将来性がない会社”と見られているのだと思います」との認識を示しつつ、そのギャップを埋めるためには、何よりもまず確実な業績の回復が不可欠であり、2028年度までは利益の成長が必須と考えている。つまり、2028年度に売上高630億円、営業利益20億円の計画を確実に達成することが、市場からの信頼を回復するための大前提となる。
中期計画中に見込まれる約200億円の営業キャッシュフロー(営業利益と減価償却費の合計)については、その約70%をインドなどの生産設備投資や新規・更新投資に充てるほか、事業拡大に伴う在庫投資も10~15%程度必要と見込む。研究開発投資については売上の1%程度(約30億円)を確保する考えで、成長投資を重視した資金配分を描いている。
一方で、今回の中期経営計画からは「連結営業利益の20%、または自己資本の1%の高い方」を基準とする明確な配当方針を打ち出し、さらに長期保有を促すための株主優待制度も新たに導入した。成長投資と株主還元の両輪を回すことで、資本効率を重視する企業へと徐々に変革を遂げていく方針だ。
また波多野社長は、技術力と資本効率について次のように述べる。
「技術力を高めて収益性を上げることが、今回作成した中期経営計画の主眼です。その結果として、技術集約的な製品の売上が増えれば、おのずと資本効率も上がる」
2030年に見える景色とは
数年のうちにインド経済が日本を規模で追い抜く。それまでにインドビジネスの基盤を盤石のものとし、自社設計製品をグローバルへと送り出す「開発型企業」への脱皮を図る。1963年の創業以来培ってきた確かな技術力と安定性を土台に、ASTIは次の5年間でその存在意義を世界に示そうとしている。













