創業112年のエンジニアリング企業 大気社 【1979・プライム市場】

EV電池・半導体工場向け産業空調事業拡大
長期経営計画策定し10年後に完工高2倍へ

大気社は、半導体工場やビルなどの空調設備に加え、自動車などの塗装設備を製造するエンジニアリング企業だ。空調分野では国内主要メーカーのひとつで、最近ではTSMC熊本工場の空調設備などを手掛けたことでも知られる。また塗装分野では国内首位、世界市場でも約25%のシェアを誇る。2025年5月には、同社初の「長期経営計画(10年プラン)」を策定。その一里塚となる中期経営計画では、今期から3カ年の成長計画を推進。10年プランの最終年度となる35年3月期には、完成工事高5000億円と現時点の2倍弱まで伸ばす。
大気社-長田 雅士

長田 雅士(おさだ・まさし)

社長

1959年4月生まれ、福岡県出身。83年慶応大学経済学部卒業後、大気社入社。アメリカ駐在などを経て、2007年執行役員、09年取締役兼常務執行役員、15年大気社シンガポール社長、21年取締役兼専務執行役員。23年、代表取締役社長執行役員に就任(現任)。

アジア・欧米約30拠点で海外売上比率48%
自動車塗装設備世界シェアは約25%占める

大気社は、「エネルギー・空気・水」に関わる環境対応技術を核にグローバル展開する。現在はアジア・北米・ヨーロッパに約30拠点を持ち、グループ全体で従業員は5000人以上、海外売上比率は48%に及ぶ。

2025年3月期の完成工事高(売上高)は2762億1200万円、営業利益は179億7100万円。セグメントは、空調設備・装置を展開する「環境システム事業」と、自動車などの塗装設備を手掛ける「塗装システム事業」の2つで構成される。

同社の強みは、さまざまな工学分野の技術を融合させ、顧客が必要とする機能を発揮する独自のシステム・仕組みを作り出す「エンジニアリング技術」だ。売上の6割強を占める環境システム事業では、オフィスビルをはじめ、ホテル・空港・学校などの「ビル空調」と、工場や研究所などの「産業空調」を手掛ける。空調業界はここ数年で大型投資が増え、市場規模が拡大している。高度成長期に建てられた都心部のビルの再開発や、データセンターの新設が増加。さらに円安や安全保障などを背景に、一定数の製造拠点が国内に戻ってきた影響もあるという。

国土交通省がまとめた「設備工事業に係る受注高調査」によると、24年度の国内管工事(※)受注高は主要20社で1・8兆円と、4年連続で増加している。同社はこの市場の取組みに加え、海外受注を高水準で維持し、業界4位に位置する。

※管工事:空調設備工事、給排水衛生設備工事、ガス工事、消火栓設備工事といった管(パイプ)を使用する工事の総称

事業売上高のうち、約6割を占めるのが産業空調だ。同分野では近年、EV電池や半導体など電気・電子製品の工場・クリーンルームやデータセンターに加え、医薬品工場、食品工場などの需要が高まっている。

「外気がどんな状況であろうと、室内の温度や湿度、気流などを隅々まで一定にします。産業空調の目的は『製品の品質や精度にばらつきが出ないようにすること』。人間のための空調と違い、徹底した管理がされています。例えば、半導体の露光装置を製造する工場などではナノ単位の線幅の回路パターンを焼き付けますので、温度は1000分の1度単位で調節しますし、小さな音も空気内に波形ができると悪影響を及ぼすので厳しく管理しています。近年は同一空間の中でゾーニング(区域分け)する技術も発達しており、医薬品工場ではコンタミネーション(混入)を起こさないよう、気流のコントロールも行っています」(長田雅士社長)

塗装システムで売上約4割

売上高の4割弱を占める塗装システム事業では、主に自動車の塗装工程に関わる設計・施工からオートメーションなど、塗装工場を一括して請け負う技術・ノウハウを有する。この領域においても「エンジニアリング技術」を武器に、顧客に独自のプランを提案し、信頼を得てきた。最近は、建機や鉄道、航空機メーカーにも顧客が広がりつつある。

「顧客が選定した塗料をもとに、工場の規模や条件を考慮しながら設計し、最適解となる設備を提案していきます」(同氏)

塗装分野の世界市場規模は約3000億~4000億円。空調分野に比べると規模は小さいが、同社は世界シェアの4分の1を獲得している。業界ではドイツのDürr(デュール)社に次ぐ世界2位で、大気社は世界各国に工場を持つ日系自動車メーカーからの引き合いが多い。そのため同事業の海外比率は約8割と、同社のグローバル展開をけん引している。

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