主要空港で航空機に動力供給
地下に埋設された電源を保有
メインエンジンを止めた駐機中の航空機は、照明や電子機器、空調などに必要な動⼒を別の方法で補う必要がある。同社は、地下に固定式のGPU(Ground Power Unit、地上動力装置)を埋め込み、電力会社から仕入れた商用電力を航空機用電源に変換、地面の電力ピットからケーブルを引き出し、駐機に供給する独占的企業として設立された。現在、同社は保有する固定電力設備や固定空調設備を用いて、羽田・成田・新千歳・伊丹・関西・神戸・中部・広島・福岡・那覇の10空港で「動力供給事業」を展開。海外含めた約140社ものエアラインへ供給している。
「空港建設、再編・拡張工事の際に同時に設計をして、GPUを地下に埋め込みます。それを安定的に当社の資産として長期間使っていくのがこの事業の特徴です」(杉田武久社長)
また、ターミナルから離れた場所で動力供給する場合は、移動式GPUとなる電源車や空調車を活用する。
なお、近年は航空機体の胴体後部などに小型のエンジンで回すAPU(Auxiliary Power Unit、補助動力装置)を整備し、“自家発電”する方法も普及している。
「ただし」と杉田社長は言う。
「APUは航空燃料を消費し、CO2を含む排出ガスや騒音も発生します。駐機中の航空機がAPUからGPU使用に変更した場合、CO2排出量は10分の1以下に削減できることもあり、APUの使用を制限しているというルールの空港の国が増えているのです」(同氏)
売上高の半分はエンジニアリング事業
空港の安定稼働を支える縁の下の力持ち
2025年3月期は、売上高前期比11・2%増の144億4300万円、営業利益同26・5%増の13億4000万円(営業利益率は9・3%)。インバウンド需要による国際便の運航便数増加などが寄与した。
同社は現在3セグメントを展開。前述した航空機への「動力供給事業」は売上高全体の40%を占め、「エンジニアリング事業」は51%、「商品販売事業」は9%となった。
「動力供給事業」と共に同社の柱である「エンジニアリング事業」では、整備保守、施設保守、セキュリティ保守、ビジネスジェット支援、物流保守サービスの5つを展開する。
整備保守では、旅客搭乗橋設備や手荷物搬送設備といった空港の特殊機械設備、物流倉庫の搬送設備などの運用・保守管理を行う。施設保守では、空港内の航空機格納庫、貨物上屋、機内食工場、排水処理施設、冷熱源供給設備、特高変電所などと、空港内外の諸施設の整備や保守管理・維持管理を担当。セキュリティ保守は、⼿荷物検査装置などの保安機器の保守・運用管理を行う。また、空港だけでなく港湾などでもX線検査装置、⾦属探知器、爆発物検知装置、液体物検査装置などの機器の保守管理を担っている。
「商品販売事業」では、GSE(Ground Support Equipment、航空機地上支援機材)などの販売と、フードシステム販売。GSE販売は、海外メーカー代理店としての輸入販売と、着陸時のブレーキを冷やすためのブレーキクーリングカートなどの自社開発製品を販売している。
「当社は伸び縮みする屋根付き通路パッセンジャーボーディングルーフを製造しているのですが、最近は港湾向けも増えています。雨に濡れない安全な通路として、大型旅客船の乗降用や地方の港などへ販売しています。一方フードカートは1980年代に日本航空(JAL)の国際線で使っていたシステムを病院、学校給食に展開しているサービスです。高齢化に伴って病院、介護施設などでの需要も増えていますので、空港外の事業として、ある一定程度の収益を確保できると思っています」(同氏)
日本の航空業界と共に成長
近年はガバナンス強化に注力
同社の設立は1965年。70年の大阪万国博覧会を前に、大阪国際空港(伊丹空港)を整備する際に併せて固定式GPUを埋設し運用する「日本空港動力」が前身だ。GPUは当時の通産省が開発した日本独自の技術で、国の指導の下、当時国内航空路線を持つ日本航空・全日空・東亜航空・日本国内航空の4社が共同出資した。以降、主要空港の開発・整備に併せてGPUを埋設し、駐機する航空機に動力を提供するビジネスモデルを独占的に展開している。
ただ国内空港を対象とした事業だけでは成長余地は限られ、持続的成長は難しい。そこで同社は空港外の事業強化を目指し、2000年に空港専門のイメージが強い「日本空港動力」から英語名Airport Ground Powerの頭文字を使った「エージーピー」に社名を変更。翌01年、ジャスダック市場(当時)に株式上場した。
22年の市場区分変更ではスタンダード市場を選択。上場を維持するために、より透明性の高い社内ガバナンス体制の構築に努める方針を明らかにした。それまで1人だった社外取締役を2名体制に、また主要株主企業から選任されていた取締役に自社の社員も参画。ガバナンスの見直しに伴い、独立社外取締役を中心とした指名・報酬委員会を設置。取締役も社長も1年周期で然るべきプロセスによって選定されることとなった。そして24年4月、設立以来初めてとなる生え抜き社長として杉田武久氏が就任。これまで同社の社長は、日本航空などといった大株主やその関係会社から選ばれていた。
杉田社長は就任後すぐに新たにチーフオフィサー制度を導入し、技術・戦略・財務の各最高執行責任者を明確化。また取締役会の任意の諮問機関として「特別委員会」を設置し、主要株主やその関係会社と、少数株主の利益が相反する恐れのある事項についても審議できる体制を整えた。
「現在大手エアライン2社が主要株主となっていますが、当社は他に空港を利用する外国も含めた約140のエアラインに対しても公平で中立的な立場でサービスを提供する責務があります。今後も上場会社として適切なガバナンスを具備し、経営の透明性を示していきます」(同氏)
GPU使用率を30年度に100%へ
航空業界の環境負荷軽減を目指す
22 年5月公表の中期経営計画では、最終年度となる26年3月期に売上高150億円以上、営業利益15億円以上(営業利益率10%以上)を掲げていた。だが近年の業績好調を受け、25年5月に上方修正を発表。26年3月期は、売上高が前期比10・8%増の160億円、営業利益は同20・1%増の16億1000万円(営業利益率10・1%)となる見通しだ。
主軸のGPUは、現在約6割に留まっている使用率を30年度に100%とする目標を掲げている。同様に、航空業界の環境負荷軽減にも貢献していく。
例えば、同社の固定設備が配備されていない地方空港などのために、フランスのSmart Airport Systems社と共同出資し、“飛行機のアイドリングストップ”ともいえるAPU オフサービスを展開するSmart Airport Systems Japanを設立。航空機用の電源、空調を同時供給できる移動機材『COMBO』を拡充し、環境貢献と利益創出を図る。
移動式GPUでは、国産初のバッテリー駆動式『Be power.GPU』を開発しEV化を推進。それまでのディーゼル式GPUに比べCO2排出量が、約3分の1に減らせる。同社は年間4000万kWという電力を消費しているが、その電力も再生可能エネルギー由来のグリーン電力に置き変えていく。
また国内空港で培った独自の空港インフラ技術を、新設・拡張計画のある海外空港への輸出にも力を入れている。
「すでにタイのドンムアン・スワンナプーム・ウタパオの3空港での展開を視野に、現地のステークホルダーと協議を始めています」(同氏)
「エンジニアリング事業」では、空港で培ったノウハウ・技術を、伸長著しいEC市場の物流倉庫関連などに拡大。空港外の機器設置や保守業務の受注は23年度で389件、今後も増加が見込まれている。契約方法も、メーカーからの業務請負ではなく、物流設備オーナーからの直接契約を積極的に獲得。M&A投資なども含め、空港外の売上比率2割以上の目標を実現し、新たな事業成長の柱にしたいとしている。
「国内のGPU事業はいずれ頭打ちになりますし、空港でのエンジニアリング事業は、どんどん機械化されていきます。新しい収益の源泉として、蓄電池やAIを駆使したかたちでのEMS(エネルギーマネジメント)のビジネス化や、物流倉庫などの空港外の成長事業を創出していきたいと思っています」(同氏)
(追記)6月6日時点
去る4月25日、エージーピーの30.46%の株式を持つ日本航空(JAL)より、株式の非公開化を目的とした「株式併合」「単元株制度の廃止」「定款の一部変更」「取締役3名の選任」を求める株主提案が提出された。対してエージーピーは5月2日にガバナンス検証委員会を設置。5月22日に同委員会から報告書を受領したことを受け、同社は取締役会において、JAL提案に反対を決議した。
6月1日時点では、エージーピーがJALの株主提案に正式に反対の立場を表明している一方、JALは株主提案を株主総会で審議する予定だ。エージーピーは、少数株主の利益保護や企業価値の維持を重視し、引き続きJALとの対話を求めている。
エージーピーの杉田武久社長は、「当社は今回の株主提案を、支配株主によるガバナンスのねじ曲げに等しい構造的提案と捉え、上場企業としての説明責任と少数株主の権利保護のため、今後も断固たる姿勢で対応してまいります。エージーピーは、日本の空港における電力供給という公共性の高いインフラを担う上場企業として、今後も独立性・中立性・説明責任を重視し、企業価値の向上に努め、航空業界の発展と持続可能な社会に貢献してまいりたい、その一心でございます」とコメントしている。
EMS開発で「環境×電気×DX」実現へ
空港の脱炭素の流れの中で、同社は蓄電池利用も含めたAIやDXを駆使したEMSを導入し、エネルギー総量とコストの両方の抑制を目指している。現在、かつて空港開発を支援したタイ王国で、タマサート大学と、日本の武蔵野大学の協力を得て“環境×電気×DX”による空港のEMS実証実験を続けており、空港の使用電力を最適化するシステムの実現を図っていく。