人工歯や研削材で、半世紀以上国内シェアトップを維持
松風は、歯科治療における材料や機器の開発・製造・販売を一貫して手がけている企業だ。人工歯や研削材、詰め物や被せ物などに使用される化工品類・セメント類、診療用機械器具をはじめとした治療・技工に必要な製品を幅広く展開。主力製品である人工歯では国内シェア37・0%、研削材では同46・3%で、いずれもトップシェアを堅持している。
発売から30年以上売れ続けるロングセラー製品が多数あるのは、その品質の高さが歯科医療従事者から長く支持されてきた結果だ。色や強度、硬化スピード、さらには治療における扱いやすさや治療後の患者さんにとっての噛みやすさなど、あらゆる角度から品質を追求してきたことで、歯科医療の現場になくてはならないものの1つとなった。
品質の高さを支えているのは、研究開発力に他ならない。良いものを作ることにこだわり続ける姿勢が、これまで多くの世界初・日本初の製品を生み出している。
高い研究開発力で、国内の
歯科診療の発展をリード
松風が国内外で技術力を評価されるきっかけとなったのが、1965年に世界で初めて完成させた「球状アマルガム」の研究だ。
虫歯治療で削った部分に充填する材料である「アマルガム」は、当時粒子が角張っており、充填操作がしにくいなど複数の欠点があった。そこで同社は粒子が球状の「アマルガム」を開発。充填操作や材料の取り出しが容易になったほか、水銀含有量の減少、硬化時間の短縮、成形のしやすさなどを実現。その研究をもとに同社は「松風スフェリカルアマルガム」として製品化し、歯科医療の現場での操作性と仕上がりの品質を大幅に改善した。この技術革新が、松風の名を国内外の歯科業界に広く知らしめる契機となった。
創業者による
研究開発へのこだわり
世界初の技術を生み出してきた背景には、創業者である三代目松風嘉定氏の存在がある。
鳴海の国(現名古屋市)に生まれ、京焼(清水焼)を代々受け継ぐ家系である松風家に養子として入った嘉定氏。当初は陶磁器の輸出業を営んでいた。しかし、1915年の渡米視察において、後に慶應義塾大学口腔外科教授となる岡田満医学博士と出会い、日本の歯科医療における人工歯である「陶歯」の国産化の必要性を強く認識することとなる。
当時、日本の歯科現場では輸入品の「陶歯」に依存しており、それらは高価であるだけでなく、日本人の口腔形態に適合していなかった。こうした現状を受け、嘉定氏は国産の歯科用陶歯の開発に着手。米国で、共同研究者の荒木紀男氏と共に幾度もの試作と改良を経て、ついに日本初の高級陶歯「S.A.P アナトーム形態」を完成させる。その後も、海外由来の製品をさらに発展させた日本初の製品を多数開発。たとえば、86年に発売した「エンデュラ アンテリオ」や88年に発売した「エンデュラ ポステリオ」は、日本初の硬質レジン歯。耐摩耗性や審美性に優れ、現在でも高いシェアを誇っている。
松風の技術革新は、日本の歯科医療の発展に資する重要な礎となった。
時代の先を見据える姿勢で
常に現場の課題に向き合う
個々の製品開発は、単なる技術革新にとどまらない。そこには常に、患者や歯科医療従事者の声に耳を傾け、現場の課題に真正面から向き合うという、松風の一貫した姿勢があった。そうした積み重ねこそが、同社の信頼を築き上げ、今日の確かなブランド価値へとつながっている。
長い歴史に裏打ちされた確かな技術と、現状に満足することなく挑戦を続ける開発姿勢。松風は、創業から一貫して歯科医療の現場と真摯に向き合い、課題に応える製品を生み出してきた。
その歩みを支えてきたのは、伝統を重んじながらも常に時代の先を見据える姿勢だ。
歴史の中で築かれた技術力と探究心こそが、同社の揺るぎない強みであり、これからの歯科医療の未来を切り拓く原動力となっている。