サステナブルインフラ いちご 【2337・プライム市場】

「ホテルに、新たな価値を。」
いちごが描く“価値創造型ホテル事業”の成長戦略

現存不動産に新しい価値を創造する独自の「心築(しんちく)」事業を中核に、クリーンエネルギーやアセットマネジメント事業などを展開する、いちご。中でも近年、同社グループの成長ドライバーとして存在感を高めているのがホテル事業である。訪日外国人旅行者数の急回復、宿泊単価(ADR)の上昇、地方観光需要の拡大――。日本のホテル市場が新たな成長局面に入る中、いちごは単なるホテル保有会社ではなく、「ホテル価値創造企業」として独自のポジションを築こうとしている。

▲いちご地所
細野康英社長

▲いちご地所 心築ホテル運用部
大西良幸氏

取得・運営・売却までを一気通貫

同社のホテル事業における最大の強みは、現存不動産に価値創造を行う独自の心築(しんちく)という技術・ノウハウをベースとした、グループ内で価値創造の全プロセスを完結できるプラットフォームにある。現在、同社グループでは、ホテルアセットを保有・心築するいちご地所、ホテル特化型REITであるいちごホテルリート投資法人、ホテル運営会社「ワンファイブホテルズ」の3社が緊密に連携。物件取得から心築、運営、REITへの供給(売却)にいたるまで、一気通貫の体制を構築している。

いちごのホテル事業は近年、単独セグメントとなり、グループ全体を牽引する重要な位置づけを担っている。

同事業を統括するいちご地所の細野康英社長は話す。

「当初は不動産投資から始まったが、自分たちのホテルブランド「THE KNOT(ザ ノット)」を立ち上げ、自社でオペレーションもするようになり、段階的に事業拡大を図ってきた。特にコロナ禍をきっかけに、オペレーション事業を大きく伸ばしてきた」

いちごは、自らオペレーターになることで現在の運営を実現させている。いちご地所と、運営会社ワンファイブホテルズの双方に携わる大西良幸氏は「コロナ禍で事業環境が大きく変化する中、運営会社の撤退・縮小に伴い現場人材を引き継ぎながら運営基盤を強化してきた」と補足する。

※ワンファイブホテルズが運営するホテル数は、2026年2月末時点で21ホテル、3101室。

「THE KNOT」の差別化戦略

現在、インバウンドの急回復を背景に、多くのデベロッパーがホテル投資へ参入し、市場の競争は激化の一途をたどっている。その中でいちごが重視するのが、「心築」を基軸とした他社との差別化である。
その象徴が、同社のオリジナルブランド「THE KNOT」だ。ライフスタイルホテルを標榜する同ブランドは、細野社長が10年ほど前から考えてきたものだという。

▲「ザ ノット 東京新宿」(左)、「ザ ノット 広島」(中央)、「ザ ノット 宇都宮」(右)

「当時からホテルの供給過剰を見据え、一般的なビジネスホテルやフルサービスホテルの市場に巻き込まれたくないと考えていた。そこで、ビジネスホテルでも高級ホテルでもない、日本にはまだ定義のなかった『ライフスタイルホテル』という新領域を創り出そうと決めた」

いちごが定義する「ライフスタイルホテル」には、3つの要素がある。

1.デザインを軸とした快適な居心地の演出
2.地域に根差したローカル(地元)体験と人との出会いの提供
3.フレンドリーでホスピタリティあふれる日本らしいおもてなし

これらのコンセプトを具現化するため、オーナーであるいちご自身がブランドを保有し、「オペレーター(ワンファイブホテルズ)」、そして「レストラン」の3社が一体となって場を作り上げる体制をとっている。特に重視しているのがレストランの存在だ。プロフェッショナルと協働し、レストランやラウンジ、ベーカリーを地域に開かれたオープンな場所に仕立てている。

「THE KNOT TOKYO Shinjuku(ザ ノット 東京新宿)」はその代表例。1979年開業の旧耐震物件だったホテルを40億円投じて大規模リニューアルし、団体客中心の都市ホテルから、欧米を中心とするインバウンド比率90%以上のライフスタイルホテルへと転換させた。1階と2階をレストランやカフェ、ラウンジ、ロビーなど開放的なパブリックエリアに改装することで、海外からのレジャー客と、日々の買い物や食事に訪れる地元住民が自然に交差する空間を演出。これによって客室単価や稼働率を大幅に引き上げ、新築以上の価値を生み出すことに成功している。

「THE KNOT」は現在、関東と北関東、北海道、中国、九州に展開。2026年4月に開業した「THE KNOT FUKUOKA Tenjin(ザ ノット 福岡天神)」は、「感性に火を灯す、街巷のサロン」がコンセプト。レストランをメインに設計された「泊まれるレストラン」という新発想で、街に開かれたホテル体験を提供する一方、大阪では難波にある約350室のホテルを改装し、将来的にはTHE KNOTブランドへとリブランドする計画を推進中。インバウンド需要も極めて旺盛な大阪エリアでの展開に注力している。

▲「ザ ノット 福岡天神」外観(左)、「ザ ノット 福岡天神」内観(中央)、「ザ ノット 東京新宿」(右)

ターゲット合わせた多彩なブランド

並行して、物件のポテンシャルや物理的な制約をシビアに見極め、明確なブランドの棲み分けも行っている。細野社長は、その緻密な戦略について次のように解説する。

「ライフスタイルホテルのコンセプトを実現するためには、地域の人々と宿泊客がマッチングできるような、ゆとりあるレストランやラウンジのスペースが不可欠。しかしデザイン面での制約や空間の確保が困難な物件については、無理にTHE KNOTにするのではなく、ビジネスホテルタイプである『The One Five』に切り分けている」

アセットの特性に最適化された運営を行うことで、グループ全体の投資効率を高める一方で、ワンファイブホテルズはグループ内ホテルのオペレーターチェンジを引き受けてきた経験とノウハウを武器に、外部案件も積極的に受託していく方針を掲げており、自立的な成長企業としての歩みを加速させている。

関西圏への進出を見据える

もっとも、ホテル事業は社会や経済の影響をダイレクトに受けやすいリスクを持つ。しかし細野社長は、いちごが持つ資産ポートフォリオのバランスの良さと、ホテルアセットならではの特性に強い自信をのぞかせる。

「グループ全体としては、安定収益を生み出すオフィスやレジデンスなどのアセットを保有しており、十分なリスク分散が図れている。また、現在のインフレ下においては、日々の宿泊料金を柔軟に調整できるホテル事業こそが、最もダイレクトに市場のアップサイド(収益の上昇益)を享受できるという大きな利点を持つと考えている」

今後は、これまでの海外OTA(オンライン旅行会社)経由の集客にとどまらず、独自の会員制度構築による顧客の囲い込みや、公式ウェブサイトからの直予約比率の向上にも着手していく構想だ。

単に不動産を右から左へ動かす投資スタンスではなく、街のカルチャーを創り、人と人を結びつける「サステナブルインフラ」としてホテルを捉えるいちご。現存ストックに命を吹き込む独自の再生アプローチは、今後の日本の観光業やまちづくりを支えていくだろう。




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