人工歯・研削材の国内トップ 松風 【7979・プライム市場】

妥協なき挑戦が紡ぐ技術力
100年以上、歯科医療の未来を支え続ける革新

国内トップクラスの歯科材料メーカーである松風は、創業以来、日本初の陶歯をはじめ数多くの革新的製品を世に送り出してきた。近年では売上の約15%を新製品が占め、490件以上の特許を保有し、その数は今も増え続けている。高い技術力が歯科医療の現場からも評価され、安定的な成長を続けている松風。その技術力の源泉について、研究開発部門の吉本龍一常務執行役員に話を聞いた。
松風-吉本龍一

吉本龍一(よしもと・りゅういち)

常務執行役員

1964年生まれ。88年に大学卒業と同時に(株)松風に入社。以来、研究開発を中心に技術畑のキャリアを積んでいる。研究開発部長を経て、2020年に執行役員に就任。24年より常務執行役員研究開発・技術・マーケティング担当に就任(現任)。

成功も失敗も全てを記録
知見の蓄積が二の矢三の矢に

──松風にとって、技術力とは何ですか。
吉本常務執行役員(以下吉本) 私たちにとって技術力とは、100年以上にわたって蓄積してきた貴重な財産です。医療機器には、有効性と安全性の両立が不可欠であるため、安全かつ有効性を実現する原材料を選択し、安定した製造をいかに実現するかを厳しく検証しています。こうした判断を裏付けるのが、過去に行ってきた膨大な実験とそのデータです。我々は成功も失敗も全て記録し、次の検討材料として活用することで、確かな品質を生み出し続けてきました。この不断の積み重ねこそが、松風の技術の強みであり、次代へと受け継がれる財産です。

──貴社に根付く“ものづくりの価値観”とは?
吉本 開発の現場では「失敗=無駄」とは考えません。うまくいかなかった結果も、次の検討材料として活用され、成功への最短ルートにつながることもあります。例えば、ある原材料を使ってどういう性質が出たか、それを他の材料とどう組み合わせたか。そうした知見の蓄積が、次の一手を後押ししています。

また、妥協しないことも当社の特長です。製品化にあたっては、あらかじめ定めた要求特性(製品に求められる強度や操作性などの性能条件)項目のうち、どれか一つでも満たされなければ、製品化には至りません。例えば「高強度(割れにくく丈夫)」「収縮の少なさ(材料の体積変化が小さい)」「磨きやすさ(光沢が得やすく、見た目の良さや快適さにつながる)」「取り扱いやすさ(歯科医療従事者が使いやすく、診療・作業効率を高める)」などの要求特性を決めたのであれば、一部でも懸念点がある場合、製品化しないという判断になります。全ての項目で満点を取るのは現実的に難しいことですが、松風では品質に妥協せず、完成度を徹底的に高めた製品を市場に届けています。それが松風のモノづくりです。

現場の声を常に開発に反映
患者の立場でも品質求める

──技術力は、歯科医療の現場での信頼にも直結しますか?
吉本 製品開発の企画段階から歯科医療従事者の皆様の意見を反映しています。試作品は歯科医療現場を想定して歯科医療従事者の皆様が評価を行い、そのフィードバックを当社が受けて改良を重ねることで、確かな品質を実現しています。また、「製品が期待通りの結果を示さない」といったご相談をいただくこともあります。歯科材料は保存状態や使用環境・方法などの影響を受けるため、当社では温度や湿度など多様な条件で試験(実際の診療環境を想定した耐久性評価)を行い、豊富なデータを蓄積してきました。そのデータを基に状況を分析し、科学的な根拠に基づいた適切な対応を行うことで、信頼を得ていると考えています。

──松風の技術者に共通する“心構え”とは?
吉本 技術的ハードルの高い開発テーマであっても、途中で妥協せず、最後までやり遂げる。そうした姿勢が、現場には自然と根づいています。研究開発は数年単位の取り組みになることもあり、地道で根気のいる作業の連続です。それでも、一つひとつの課題に粘り強く向き合い、成果に結びつけていく。その積み重ねが、松風の製品クオリティを支えているのだと感じています。

さらに言えば、私たちは開発者であると同時に、医療を受ける側の一人でもある。「これは自分の治療に使って欲しい」「家族にも安心して使ってほしい」と思えるものでなければ、世に出すべきではないという共通の意識が現場にはあります。使う人、治療を受ける人の立場に立って、より確かな品質を追い求め続けるのが当然だという風土です。

──開発現場では、世代や立場を超えて活発に意見を交わす文化があるそうですね。

▲松風の社内では至る所でミーティングが開かれる

吉本 はい。研究テーマの進捗やアイデアは、月例報告会(研究部門内での定例ミーティング)や開発チーム内で共有しています。例えば、「こういう組み合わせはどうか?」という先輩からの助言に対して、「既に試していて、こういう結果でした」と即座に返答するような率直なやりとりが日常です。上下関係にとらわれず、技術者同士は常に対等。持っているデータと検証結果が議論の軸になります。

また、年末には社内で技術発表会を開催していて、失敗の過程やブレイクスルーの瞬間などを、時にユーモアも交えながら発表します。活発なディスカッションや質疑応答を通じて知見が共有されていく雰囲気の中で、松風らしい社風や技術者の誇りも育まれているのではないでしょうか。

開発者それぞれが責任感
上下関係なく議論重ねる

──研究開発部門の人材構成についても教えてください。
吉本 研究開発部門では、男女比は女性が約2割、男性が約8割と男性比率が高い構成ですが、女性も各年代にわたって在籍しています。年齢構成は30代と40代で全体の約6割弱を占め、中堅層が厚みを持つ一方で、20代も約2割を占めており、若手人材の積極的な登用を進めています。ベテランから若手までバランスの取れた体制です。

▲研究成果を形にした松風の歯科材料(充填修復材の一例)

──そうした環境で育った技術者には、どのような誇りや意識が醸成されていると感じますか。
吉本 製品開発は、優れた製品をいかに早く世に出すかという他社との競争の中にあります。歯科材料の領域は国内外の研究者・企業が限られていて、特許情報などから開発者や開発体制などがわかります。特に国内では他企業の開発者と交流する機会もある業界です。だからこそ、一人ひとりが“松風の技術を預かっている”という責任感を持ち、自らの技術を磨き続ける必要があります。若い頃、上司からは「競争相手から見れば、松風の技術力とは製品開発を担当する技術者のスキルそのものだ」と教えられました。開発力の高さは、技術者一人ひとりの力の結集であり、それが松風ブランドの信頼の礎となっています。

──この妥協なき姿勢こそが、松風の安定した成長基盤を支え、持続的な企業価値創造につながっているのですね。本日はありがとうございました。

(7979・プライム)
京都市東山区福稲上高松町11

https://www.shofu.co.jp/

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