創業から変わらない理念
食の安全を50年以上追求
山口県に本社を置く秋川牧園は、「安心・安全」にこだわり食品を生産する「総合オーガニックファーム」だ。鶏肉・鶏卵を軸に、野菜や黒豚、和牛、牛乳などを生産。2025年3月期業績の売上高は過去最高の79億5700万円で、うち8割が生協などへの「生産卸売事業」、残り2割が自社ECサイトでの「直販事業」となる。
同社の1番の特徴である「食の安心・安全」は“オーガニック(薬や肥料などに頼らない栽培・飼育方法)”という言葉がまだ普及していない創業期から培われた理念だ。
「今でこそ“食の安全”というのは誰もが認める価値観ですが、約50年前となる創業時はまだまだ少数派でした。当時の時代背景としては、水俣病など様々な公害問題が起き、一部の消費者が『安心安全な食べ物が欲しい』、または一部の生産者が『農薬に頼らない方がいいのでは』と気づき始めた頃。オーガニックが1つのムーブメントとして生まれる前後となる1972年に、創業者である私の父が山口県の使われなくなった養鶏場を借りてスタートさせました」(秋川正社長)
独自手法で鶏を健康に飼育
加工も手掛け、品質を担保
鶏肉用の鶏を育てる場合、日本では生産性を上げるために抗生物質や抗菌剤を餌に混ぜて飼育する生産者が多い。また、鶏舎は自然の光が入らない「ウインドウレス鶏舎」で、1坪当たり50羽以上で飼育する例も多いという。
一方秋川牧園は、抗生物質や抗菌剤などを一切使わずに飼育。加えて鶏の飼料にこだわり、肉骨粉や油脂など動物性原料を使用しない「オリジナル植物性飼料」を自社開発した。また鶏舎は、自然の光や風が入り込む「開放型鶏舎」を採用。飼育密度も1坪当たり35羽程度に制限し、鶏が自然な生活サイクルの中で自由に動き回れる環境を整えている。
「“良い食”というのは、鶏でも牛でも、それ自身が健康でないと作れないというポリシーを持っています。よく野菜やおコメでは残留農薬問題が取り上げられますが、実は畜産物においても餌を通じて入ってくるリスクがある。こうしたリスクのない餌を開発するというのは、父が創業して最初に取り組んだことでした」(同氏)
若鶏を全期間で無投薬飼育する方法は、秋川牧園が日本で初めて確立したという。また野菜なども、無農薬栽培を行っている。卵や牛乳は直営だ。一方で若鶏については自社農場に加え、秋川牧園の理念に共感する提携農場にも一部委託。また、豚肉は2軒の提携農場に委託している。その場合は、飼料や飼育・栽培方法に細かく決め事を定めているという。
若鶏の飼育後は、グループ内で鶏の一次処理(屠畜)をし、自社のミート工場や冷凍食品工場で加工も行う。
「例えば鶏肉であれば、当然のことですが、消費者の元には生きた鶏ではなくお肉のパックの状態で届きます。その間には、一次処理から始まって様々な加工の工程があるのです。この加工の工程を他人任せにすると、どんなに良い鶏を育てても、価値が途中で切れるだろうと。そこで加工に関しても、鶏肉のパック工場でしたり、冷凍食品を作る工場でしたり、こうしたものも自分たちで作れるようにと、時間をかけながら自社工場の体制を整えてきました」(同氏)
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