ショッピングセンター取得契機に
宮崎県では20年間で領域が拡大
—―御社が打ち出している「サステナブルインフラ」ですが、具体的にどんな価値を社会にもたらすのでしょうか。
石原 不動産を起点に、スポーツや農業、ホテル、教育、医療等の事業を乗せて、人と人、都市と地方、健康と暮らしをつなぐことから新たな価値を創造し、「まちの持続可能性を高める」ことを狙いとしています。例えば、既存のショッピングセンターに様々な用途、機能を加え、周辺地域の拠点にする。既に宮崎や横須賀で展開しています。実際、郵便局、学童、障がい者施設、プロスポーツチームのクラブハウスなどを取り入れることで、街へのインパクトが大きく変わっていると実感しています。
―—モデルケースとなっている宮崎県エリアでは、20年前から取り組んできました。
石原 宮崎県内最大級の地元ショッピングセンター「宮交シティ」の株式を取得して再生したのが原点です。その後、公共宿泊施設の指定管理や、農業関連事業、M&Aによるさつまいも工場、マンゴー、ライチ、バナナなどの農園取得など、次々と案件をいただき、宮崎県内での領域が拡大してきました。特に地元農産品の焼き芋では、全国的な賞をいただくなど、地域資源と事業が連動しています。また、都城市を含む4か所の太陽光発電所を開設・運営しています。いちごが手掛ける宿泊・スポーツ・農業施設では、医療従事者との協働も始めていきます。病院だけではなく日々の生活の中で、人とのつながりや、身体を動かし健康に暮らす。これらの“社会的な処方箋”としての街づくり、サステナブルインフラに挑戦しています。
―—地元への寄付活動も積極的に行っている。
石原 これまで、地⽅創⽣応援税制(企業版ふるさと納税)を活⽤し、2022年以降、宮崎県、宮崎市をはじめとした県内⾃治体へ累計4億1900万円の寄付を実施しており、地域課題の解決に向けて積極的に参画しています。
サッカーJリーグチーム取得
子供たちへの健康促進にも貢献
―—スポーツ面での地元貢献も目立ちます。
石原 サッカーJリーグの「テゲバジャーロ宮崎」を100%子会社化したほか、チームの経営指導を行うなど、スポーツ環境整備にも注力しています。プロリーグ基準に合わせた体育館やアリーナ整備、設計・改修などすべて自社でノウハウを活用しているのです。また、都城市では、2025年4⽉に供⽤を開始した「霧島酒造スポーツランド都城」を中⼼に、スポーツ振興に積極的に取り組んでいます。⼦どもたちへのスポーツ教室などにも協⼒しています。
―—こうした活動は収益面でも成り立っていますか。
石原 はい。Jリーグチーム経営指導、公共施設指定管理やPPP事業などで1億円程度の利益が出る見通しです。何より、ほぼ資本投下ゼロで“ノンアセットビジネス”として展開できる点が強みです。その結果、不動産を買って利益を上げるよりも圧倒的に資本効率が高く、2030年にはこの分野で数億円規模の収益を目指しています。
―—社内にはスポーツ選手(テニス、陸上、重量挙げなど)が社員として所属しています。オリンピック選手や将来有望なプロ選手を輩出している。ビジネスとしての効果は。
石原 彼女、彼らは部活動形式で活動しています。日々取り組んでいる健康づくりの知見を活かせることができていると考えています。体育の民営化による地域貢献はもちろん、企業向けにはオフィスワーカーの準備体操はじめとする健康推進など還元できることは多い。
PFI・PPPにも積極的に参画
他地域での実績も増加
―—地方創生をキーワードに事業を進めていくなかで、自治体との関係性もより深くなっています。予算に制約がある自治体にとって、民間企業の知見は是が非でもほしいはずです。
石原 確かに民間アイデアを取り入れたいニーズが高まっています。当社でもPFIやPPPに多数参画しており、神奈川、栃木、富山、島根、宮崎、鹿児島など幅広く展開しています。
―—御社の取り組みについて、海外の参考モデルはありますか?
石原 スポーツを核にした地域活性化モデルという点では、一部スペインを参考にしていますが、全体像が似ている会社はないですね。国内でも同様の取り組みを進めている企業はありますが、当社は“建物の用途転換+ソフト(人・スポーツ・農業・発電など)”を一体化して実施できるところが独自の強みです。
―—事業は全国で拡大中ですが、今後更なる拡大に向けて重視している点は。
石原 人口規模や交通利便性、観光客の動向、自治体の計画などを勘案しながら、展開していければと考えています。例えば宮崎のように「飛行機でしか行けない」ような地域にも積極的に入っていく方針です。
―—今後の展望や意思決定のスタンスについて教えてください。
石原 人がつながることで、社会が生き生きする。不動産はもちろん、スポーツも、農業も、宿泊も、医療も、すべてがインフラになり得る。いちごは、その“インフラを提供する会社”でありたいと考えています。宮崎では仕掛けた基盤が地元に根付きつつあり、今後は、各地のいちごグループの拠点を核に、順次展開します。人口の基準は明確には持たず、交通利便性や観光ポテンシャル、自治体との関係性などを観察しつつ、目的に合った地域で展開していきたいと考えています。