地方都市で未利用木材活用し
ペレット製造とバイオマス発電
北海道上川郡下川町は、面積の9割を森林が占める人口約3000人の小さな町だ。かつては鉱山で栄え、1960年代のピーク時には人口が1万5000人を超えていたが、鉱山閉鎖や産業構造の変化から過疎化が進んだ。2000年代以降は持続可能な森林経営、公共施設における木質バイオマスエネルギー利用に国内の先駆けとして取り組んでおり、「環境モデル都市」「バイオマス産業都市」などに認定されてきた町でもある。
24年6月、三洋貿易、下川運輸、大日本ダイヤコンサルタントの3社は、下川町に新会社「北の森グリーンエナジー」を設立。前事業者から事業譲受し、再生可能エネルギー源を変換して得られた電気を電気事業者が国の定める価格で一定期間買い取ることを義務付けた「FIT制度」のもと、未利用木材(※)によるペレット(木質燃料)製造、バイオマス発電事業を展開している。代表取締役社長には、三洋貿易から大藪吉郁氏が選出された。
※未利用木材 森林を健全な状態に保つための林内密度調整のために間引かれた間伐材や、樹齢が長く環境貢献度が低下したために伐採された木材、太さや曲がりなどにより製材には適合しない規格外の木材などが該当する。
事業譲受し24年11月稼働開始
地域との信頼関係構築を大切に
北の森グリーンエナジー代表・大藪氏は、プラントエンジニアの出身。三洋貿易在籍時には、北の森グリーンエナジーの前事業者に対し、バイオマス発電所とペレット製造工場を設計・納入するプロジェクトの責任者を務めていた。
「三洋貿易ではこれまでに単体機器や小規模な製造ラインの納入は手掛けてきましたが、本格的なプラントの設計・施工からの納入は会社として初めての挑戦でした。私自身も木質のペレット製造プラント設計は初めてでしたので、最初から一発で成功した訳ではなく、途中でやり直したところもあります。苦労はしましたが、進退をかけて取り組んだプロジェクトでした」(大藪吉郁氏)
バイオマス発電の多くは、ペレットやチップ等をボイラーで直接燃焼させ、その熱で水を蒸気に変え、蒸気タービンを回して発電する方法が一般的だ。しかし下川町の発電所では、ペレットの燃焼をコントロールして可燃性ガスを発生させ、そのガスでエンジンを回して発電する、小型でありながら高効率のドイツ製の発電設備を提案した。
2019年にペレットプラントと発電所を納入。しかし5年後の24年1月、前事業者が事業撤退を発表した。FIT制度を活用したバイオマス発電所が撤退する場合、施設を更地に戻さなければならない原則がある。このままでは同社が納入した設備も解体され、更地になる。
「個人的にもそれは何としてでも阻止したかったですし、社長の新谷の『三洋貿易のあらゆるリソースを活用して対処を』という意向により、経営企画部やリスクマネジメント部など管理部門の多くの部署が事業譲受と合弁会社設立に向けて最優先で協力してくれました。社内だけでなく、前事業者の時から発電所の運営を行っていた下川運輸、土木系コンサルティングの大日本ダイヤコンサルタントがこの事業に参画し、同じ方向を向いて協力してくださったのも救いでした。前事業者の事業撤退発表が1月で、3月末に事業停止、事業譲渡の契約を結んだのが6月でしたが、これだけ短い期間で実現できたのは多方面からの協力があったからこそです。また下川町の役場の方々や地域の方々にも、色々な面で協力をしていただきました」(同氏)
大藪氏は現在、下川町で月の半分を暮らし、工場の稼働率向上の為のオペレーション、設備のメンテナンスや改善などを行っている。
「地域に根差した事業を行う以上、2~3日たまに出張で来るだけでは現地の温度感はわかりません。現地で暮らすからこそ見えてくるものがあると感じています。また木材を供給してくださる林業組合や林業家の方々は下請けではなく『我々の事業に協力してくださる大切なパートナー』ですので、そういった方との信頼関係が築けなければ、事業は成り立ちません。例えば取引先のトラックの運転手の方々にしっかり挨拶をする、業務委託で事業を運営してくださっている下川運輸の方々の誠実な仕事に誠実さで応える、そういったことを大切にしています」(同氏)
将来的に理想的な地産地消目指す
熱電供給やペレット販売も目標
北の森グリーンエナジーでは、事業を軌道に乗せたその先に、より理想的な地産地消の実現、バイオマス発電から発生する余剰熱の販売、近隣地域へのペレット販売などを目指していきたいと考えている。
「ペレットの原料となる未利用材は、できる限りは下川町や近隣の町から集材していますが、それだけでは十分ではないため、現状ではある程度距離の離れた場所からも運んでいます。将来的にはより理想的な地産地消での集材を実現したいですし、社有林などを保有し木を切るだけではなく植えることでの循環型社会への貢献も目指したいと考えています」(同氏)
また下川町では公共施設の暖房の60%を木質バイオマスエネルギーで担うなど、持続可能な再生可能エネルギー社会創造に取り組んでいる。同社においても今後は、バイオマス発電で余剰となっている熱の供給を進めていく考えだ。
ペレットの製造量においては、北の森グリーンエナジーは年間1万トンと、国内120社のうち5位以内に入る。今後は北海道内の近隣の自治体のボイラーへのペレット販売なども目指す。
「日本で先駆けて木質バイオマス熱利用を町主導で取り組んできた下川町で、木質バイオマス事業を展開できることはこの上ない喜びと感じています。当社の事業によって、雇用創出、一次産業である林業の活発化、地域経済の発展や脱炭素化へ少しでも貢献することができればと考えています」(同氏)